2010年bk1怪談大賞 入選作感想一覧

 どうも、こんばんわ。

「屁大賞【掌&幽怪談文学賞225】投稿者カモーン!」(http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1308320633/l50)で、908さんからご要望いただいた、2010年bk1怪談大賞の受賞作に関しての感想を書きました。
 よろしければ御覧ください。

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優秀作

「あふひ」芝うさぎ
 妹の名前を明らかにする意味があったのかどうか。
 ラストの二行は、多少くどい感じはするものの、効果を念押ししていていい。

「警告」葉原あきよ
 最後の一文に、語り手の恐怖が滲んでいて、そのための前置きとしてそこまでの文章が生きてくるのだなと思った。

「安全ポスター」猫吉
 語り始めから終わりまで、非常に丁寧に組み立てられていて、好感が持てる。
 内容も無駄がなく、怖いような不思議なような、淡い部分に落としこまれていい。
 惜しむらくは地味なことか。

「手話」神沼三平太
 手話幽霊、というのは新奇なイメージがあるが、それ以外は普通の幽霊譚。

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佳作

「コラボ」古屋賢一
「あの時のネタだ」みたいな指摘があればよかった。

「ボランティア」有井聡
 「お兄ちゃんが消えてしまった瞬間」という言葉が、カニカマのような物体も消えてしまったと指しているように想ってしまい、最後で「?」となった。
 最初の方の「それ、おもしろい?」の「それ」も、ボランティアの説明との間にひきこもりエピソードが入るため、すぐにボランティアとは気づきづらい。

「マリア様をみてる」地獄熊マイケル
 YやS先輩などのキャラクター性が薄い。
 なぜ語り手がS先輩の姿をしたものに恋したのかなどがわからず、シチュエーションのためのコマのようにしか思えなかった。

「汐蜂」我妻俊樹
 異形の生物を語る一挿話として、完成度が高い。
 ただ、オチの一文は余計だったと思う。

血天井」屋敷あずさ
 スピーディに怪異が起こり、スピーディにオチる。
 故・杉浦日向子氏の傑作怪談漫画『百物語』にありそうな話。

「いばらの孤島へ」君島慧是
 海洋ホラーとして、800字にしては無類の完成度だが、怪談賞の入選作かと言われると首を傾げる。

「チヤの遺品」金魚屋
 東雅夫氏は、選評で「死んでから恋人関係になるところが新手の冥婚譚」と言っているけど、個人的には以前から二人は付き合っていたと思う。死者と付き合い一緒に寝るよりも、付き合ってた死者と一緒に寝る方が自然だと思うから。
 それ以外に、特にいうこともない傑作。押切蓮介氏に『でろでろ』の調子でコミカライズして欲しい。

「ぶち切レ」在神 英資
 ラストの一発のためだけの話。
 それを考えればホテルじゃなくてもいい気がする。
 そして、それだけでは怪談としてのレベルはあまり高くない。

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愉しませてもらいました賞

加門七海
「黒く塗ったら」行一震
 先生がどうになかるなら、クラスでもどうにかなってる人が出てもいいのでは。

福澤徹三
「廃屋」緋衣

 薄暗い雰囲気の古い家が暴かれ、金色の仏壇が現れるイメージの、すすけた禍々しさがいい。
 そこがしっかりしているので、あとは朦朧としていても効果は上がる。

東雅夫
「ねばーらんど」間遠南

 弟はアニメの中にいるのか、墓の中にいるのか。その齟齬が気になる。

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 以上です。
 受賞して以降の感想なので、その前に読んでいたらまた違った感想だったかもしれません。

 私の感想とお三方のそれとの差異、ということを言えば、雰囲気的な部分での違いが顕著かと思います。
 それがセンスによるものなのか、経験値の差なのかはわかりません。
 さらに言えば、お三方はそのような、センス部分で秀でている作品を上位に持ってくる事が多く、そこに文章的な巧拙はそこまで持ち込まれるものではないようです(とは言っても最低限のクオリティは必要なのだろうと思いますが)。

 個人的には、福澤徹三氏が、一番私の好みに近い採択をされるものと思っています。
 選者の好みが大きく反映されるであろう「愉しませてもらいました賞」に緋衣氏「廃屋」を持ってくる辺り、共感いたします。

 といったところで、じゃあ、おやすみなさい。

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